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2026年3月の糖尿病ニュース

GLP-1受容体作動薬による肥満症治療

おおはしクリニック GLP-1受容体作動薬(GRA)は2型糖尿病患者の血糖コントロールを改善するのみならず体重減少作用があり、多面的作用と合わせて心血管疾患(CVD)既往のある(2型糖尿病のない)肥満症へのイベント抑制効果(1)等から現在肥満症治療にも適応があります。この肥満症治療をCVDの一次予防におけるスタチン治療になぞえてGRAの早期使用と呼ぶ意見もあります(2)。
しかし肥満症治療の長期試験(日本では68週間、外国でも4年未満)の成績がまだ出ていないことによる投与期間制限、また(私が調べた限りでは)CVD一次予防の費用対効果が未定(不明)などの問題が残されているようです。
一方投与期間制限と別に、副作用や費用等の理由から1年以内に治療中止した人の割合は(3)によると2型糖尿病で34.2~35.8%、肥満のみで50.3%でした。

おおはしクリニック GRA治療中止後どうなるか体重、心代謝マーカーの変化につきシステマティックレビューとメタアナリシスが報告されました(4)。採用された研究の平均治療期間は39週(11〜176週間)、平均追跡期間は32週間(4〜104週間)でした。薬剤中止後の体重増加と、行動体重管理プログラム終了後の体重増加を比較しました。
月平均体重増加は0.4kg、薬剤治療後の体重増加が行動療法後よりも早く(月あたり0.3kg多く)1.5年で薬剤治療開始前に戻りました。心血管代謝マーカーも1.4年でもとに戻りました。
(4)の論文に対する電子版「編集者へのコメント」(のち編集後Letterとして掲載される速報版)は8編ありました。あくまで論文ではなく筆者の意見として読まねばなりませんが以下その抜粋です。
「数十年にわたる科学的進歩にもかかわらず、肥満は行動、意志力、または自己規律の問題と見なされ続けています。この枠組みの中で、薬をやめた後の体重増加は慢性疾患の自然な経過ではなく、介入の失敗、あるいは個人の失敗として捉えられます。治療中止後の体重増加は肥満薬に反対する理由ではありません。これはこの状態の慢性性をさらに裏付けるものです。他の長期疾患と同様に、治療効果はケアの継続性や綿密に計画された維持戦略に依存します。治療を中止した後に症状が再発することは効果を否定するものではなく、治療への依存を反映しています。」
「GRA療法が短期的な減量後に代謝の脆弱性をもたらすのではなく、持続的な効果をもたらすためには、栄養、レジスタンストレーニング、行動変容の専門知識を持つ臨床医が主導するプログラム内で処方され、体重だけでなく体組成で評価されなければなりません。」
「中止後の体重回復のメカニズムは多因子的です。GRAの停止は、食欲調節、胃の排出、満腹感シグナル伝達に対する生理学的影響を逆転させます。報酬や渇望を調節する神経経路は再び発現し、β細胞機能、インスリン分泌、腸内細菌叢は治療前の状態に戻る。その結果、意志力とは無関係にほぼ避けられない生理学的な「反跳」が生じ、肥満の慢性性を浮き彫りにしています。体重増加の生理的メカニズムはよく知られていますが、その後の心理的影響も同様に重要です。リバウンドを経験した患者は、推奨された食事や活動を守っていても罪悪感やフラストレーション、コントロールの喪失を報告することが多いです。一部の人にとって、初期の成功とその後の回復の対比は恥や落胆を呼び起こします。特に、体重減少を個人的な美徳と同一視する文化的な物語が蔓延する中で。GLP-1 RAは習慣形成の「足場」として使用され、治療中に構造化された運動、栄養、心理的サポートを組み込んで、やめた後の耐久性を高めるべきです。」
「私たちは、運動が薬物療法の前後で行動を持続させる内在的な感情的・動機付けの強化も提供すると提案します。特に食欲抑制薬が中止され、外部薬理学的強化が失われた場合に。多くの前向きな証拠は、体重変化に関係なく身体活動がうつ病や感情的苦痛から守ることを示しています。メタアナリシスによると、身体活動的な人は、現在の公衆衛生推奨を下回る活動レベルでもうつ病発症リスクが17〜25%低いことが示されています。」
「薬物療法中止後に見られる急激な体重増加は、単に薬剤離脱の必然的な結果として解釈されるべきではなく、むしろ運動を治療の核心要素として十分に統合していない治療パラダイムを反映していると考えられます。実用的なアプローチとしては、積極的な薬物療法中に監督付きで抵抗運動と有酸素運動の複合トレーニングを開始し、中止期間中でも維持することで代謝の健康を改善し、代謝の柔軟性を高めることが挙げられます。」
運動療法を勧める学者が多い印象です。


おおはしクリニック マウスでGRA治療による長期間(3週間)および中止後(1週間)体重経過を1回食餌サイズ(満腹感)、食餌頻度、一日食餌総摂取量、酸化基質、体重当たりのエネルギー消費量、活動量と共に記録した実験結果(5)が最近報告されました。
結果は;第1週は総摂取量減少・食餌サイズ縮小・食餌頻度減少、その後食餌サイズは小さいままだが頻度が増え、総摂取量は3週目に投与前レベルに戻り、投与中止後は食餌サイズ・頻度とも増加して過剰摂取に。
体重は投与中止後増加するも1週間ではもとに戻るまでは到達せず。
エネルギー消費 は初期に低下するが、体重で補正すると投与群で維持またはやや高め。
活動量は増加傾向。
初期は脂質酸化が増加、その後脂質酸化は低下し炭水化物酸化が増加する時間依存的シフト、投与中止で炭水化物酸化が急増し脂質酸化が低下。
考察として体重減少の個人差は食事頻度と酸化基質の差から生じるかもしれない、
実験では高脂質餌のみを用いたのでタンパク質の量、食事の嗜好などについては検討できなかった、などが書かれています。
以上調べたのち、人においてストレスや視覚などにより食欲が起こる外部摂食、感情摂食などにGRAがどう影響するか?2025年9月のFrontiers in Clinical Diabetes and Healthcare誌上、岐阜大学Koide Yuya先生らの論文を興味深く読ませてもらいました。

参考文献
  1. Lincoff AMらSELECT Trial 研究者: 糖尿病のない肥満に対するセマグルチドと心血管アウトカム. N Engl J Med 389: 2221-2232, 2023
  2. Zushin PJHら: GLP-1受容体作動薬の早期使用を評価する. Lancet 405: 181–183, January 18 2025
  3. Do Dら: 肥満と2型糖尿病患者におけるGLP-1受容体作動薬中止. JAMA Network Open 7: e2413172, 2024
  4. West Sら:肥満治療薬中止後の体重再増加: システマティックレビューとメタアナリシス. BMJ 392: e085304, January 2026
  5. Shah Hら: 雄マウスへ長期セマグルチド投与により段階に応じた食行動と代謝適合があらわれる. Diabetes 75: 288–300, February 2026
2026年3月


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