今月の糖尿病ニュース

2024年4月の糖尿病ニュース

HbA1c測定値個人差、低血糖と糖摂取タイミング

おおはしクリニック 持続血糖モニター(CGM;リブレ、Dexcomなど)が普及し、GMI(glucose management indicator糖マネージメント指標;CGMデータから平均血糖を求め、それをA1cに換算) と採血HbA1c値の乖離、速効・超速効インスリンの(見積違い等による)過剰投与後低血糖にしばしばお目にかかるようになりました。その点を考える上で参考になる文献がありました。
最初はマサチューセッツ総合病院の90日以上連続CGM(DexcomG5またはG6)装着、かつデータ欠損10%以下の315人(1型糖尿病86%その他糖尿病14%)データ解析を基にした論文(1)です。
HbA1cは約3か月間の平均血糖値を反映する代表的な糖尿病検査ですが、単位が%やmmol/lでワンポイントの血糖値の単位(mg/dl)と異なり 両者の関係がイメージしにくい等の理由から2008年ごろよりADAG(A1cから平均血糖AGを引き出す、ADA、EASD、IDFがスポン サーの)研究グループが推定平均血糖eAG(多数血糖測定をもとに変換式ADAG formula(28.7×A1c-46.7)作成、以後eAGA 1c)表記するよう提案しています。因みに血清クレアチニン値をeGFR表記にするのと似た趣旨です。
eAGA1cと真の(確立した測定方法はない)90日間平均血糖(AG90)との差を規定する血糖以外の主要因は赤血球の平均日齢MRBCです。MRBCに関する論文について、またMRBCを用いたAG90計算式(1) は今回省略します。
HbA1c6.5%のeAGA1cは140ですがMRBC の影響により平均絶対誤差は10、95%信頼区間25でした。従って真の平均血糖値が140mg/dlの場合、eAGA1c は115~165mg/dl、HbA1c5.6~7.4%という評価を 受ける可能性があります。同様に真の平均血糖値が117の場合eAGA1c は96~138mg/dl、HbA1cは5.0~6.4%、154の場合eAGA1c は126~182mg/dl、HbA1cは6.0~8.0%になります。血糖値が高くな るほど95%信頼区間は大きくなり真の平均血糖が180になるとMRBC の影響により測定HbA1c値範囲は6.8%から9.0%まで広がります。


おおはしクリニック自験例で随時血糖が時々300を越すにも関わらずHbA1cは7.1~2%の 人がいます。MRBC の測定は難しいですが、さてCGMを装着すれば完全に真の平均血糖値が得られるのでしょうか?
CGMはeAGA1c と異なり一定期間の平均血糖を直接測定できそうですが、血液ではなく皮下組織中のグルコース測定を行っていること、機器固有の精度の問題、 スキャン漏れ、測定を3か月間切れ目なくすることは容易でないことなどの弱点があります(1)。またGMIをHbA1cと比較する場合HbA1c測定日に近い GMIの比重を高くする必要があります。結果90日間平均血糖(eAG90)と90日間中最後の2週間で測定したeAGCGM の平均絶対誤差14、95%信頼区間 34で、真の平均血糖154の人でeAGCGM 120~180mg/dlになる可能性となりました。
90日期間中CGMデータを14日ごとに区切った場合2区間比較で、平均9%、95%信頼区間で20%の差がありました。1区間 eAGCGM168mg/dlの人の場合 別区間で134~202mg/dlになる可能性があります。
14日間のeAGCGM とeAGA1c の平均誤差はそれぞれ14と12、95%信頼区間は34と29で 近似しています が、両者の差は真の平均血糖167mg/dlの人で5%以上の確率で40mg/dl以上です。これは前糖尿病と糖尿病の差(5.7%と6.5%の差 0.8%または26mg/dl)以上の差に相当します。
AG90推定精度を上げる方法として26日以上CGMデータをとる、26日未満の場合はeAGA1c とeAGCGMの平均値をとることが提案されています。


おおはしクリニック次は1型糖尿病において空腹時速効型インスリン注 射後切迫非重症低血糖時の経口糖補給タイミングについて検討したカナダモントリオールからの論文(2)です。現在のガイドラインは15gのブドウ 糖を15分間隔で摂取するというものですが、CGM時代となり1型糖尿病コミュニティ内に「低血糖は治療から予防へ」と明確な意識変化が目撃され ています(2)。
すでに1型糖尿病CGM使用者の25%以上は血糖が70mg/dl未満になる前に糖摂取をしているという報告がありますが、今回29名ながらこの点につい て入念な準備のもと実験が行われました。速効型インスリン注射後5分毎に採血し90、80、70以下になった時点で16gの糖補給を行いました。 結果です。低血糖(血糖70g/dl以下)になった割合は34、86、100%、低血糖持続時間は7.1、17.9、26分、追加糖補給を要した割合は31、52、 69%でした。糖補給後1時間までに180以上の高血糖はほとんどありませんでした。
低血糖のおきる原因は食事とインスリン量のミスマッチ、補正インスリン量の過剰、運動など様々で今回の検討はその一例であり、またCGM使用者で は血糖トレンド矢印も併せて判断することになりますが、早めの糖補給は一つの選択肢かもしれません。


参考文献
    おおはしクリニック
  1. Tozzo Vら:HbA1cと持続血糖モニター(CGM)から推定する血糖値:正確性と相違原因の分析.Diabetes Care 47: 460-466, March 2024
  2. Cheng Rら:1型糖尿病において差し迫る非重症低血糖に経口糖質で管理すること:REVERSIBLE 試験.Diabetes Care 47: 476-482, March 2024
2024年4月


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